でも、それは少し嘘が混じる。
トレーナーと数日前に出掛けた際に寿司を奢って貰った。コンベアで回らない方だ。
高いのは出来れば止めろ、ゆっくり味わって食え。と釘を刺されけれど。
お任せでカウンターから出される寿司を堪能していたが、トレーナーの前に出される回数は半分以下だ。
財布の中身が不安なのかとからかってみると、
「ワサビと酒の匂いは大丈夫?」
それを考慮していた事に今更気づいた。食べた握り寿司に山葵は一度も入っていなかった。
ウマ娘は体力や筋力が優れるだけでなく感覚も鋭い。
聴覚と嗅覚は常人の倍以上はあり、刺激物からの反応も大きい。
予め構えておけば問題無いと伝えると、トレーナーの表情が明るくなった。
「良さげな刺身、それと清酒は冷やで」
皿に盛られた色とりどりの魚介類。箸で僅かな量のおろし山葵を乗せ小皿の醤油をつけて口へ運ぶ。
徳利から手酌で注いだ猪口で日本酒を傾ける。
その姿と仕草が妙に雰囲気を醸し出していて、寿司を頬張る自分が子供っぽく思えた。
だから、ちょっと背伸びをしてオトナの真似をしたくなっただけかもしれない。

なにせ学園の食堂だ、ウマ娘でも未成年の飲酒は禁じられている。
まだまだ自分はお子様だなと小さな溜息を落とす。
食器を下げようと顔を前へ向けるとテーブル越しに人影立っていた。
「こちらの席、よろしいですか?」
栗毛のロングヘアに星髪、右耳にはエンブレムとリボンの飾り。グラスワンダーだ。
両手で持つトレイには大きなサラダボウルがあった。通常なら数人でシェアする量で、
食欲旺盛なウマ娘の分量だとしても優に二人分以上はある。
マグカップから湯気を揺らがせるのはコンソメスープだろう。煮詰まってしまったのか少し香りが濃い。
「ありがとうございます」
先にトレイが置かれ、椅子を静かに引いたあとに着席する音がした。
何気無く見ればトレイにはサラダボウルとマグカップ、箸と紙ナプキンのみだった。
「トレーナーさんに「食事を少し控えめにした方が良い」とアドバイスされましたので」
要はダイエットなのだろう。ウマ娘としては比較的小柄な体格で無駄肉を余らせているようには見えない。
寮の庭で本場アメリカ式バーベキューを敢行し肉を焼いて延々と食べ続けるタイキシャトルなどの留学生勢。

北海道は帯広の大地が育んだザ・食いしん坊スペシャルウィーク。増重量分はトレーナーに叱られるのだとか。
グラスワンダーはまだ常識の範疇に立っているのだろう。
少し憂いた彼女の表情から野菜が盛られた器に視線を移した直後、自分の常識に電流が走った。
サラダボウルの中は黄色い花で埋め尽くされていたのだ。
出来る限り平然とした口調で、それは何のサラダかと尋ねる。
「タンポポです」
手を合わせ頂きますと食前の合掌。そして手にした箸でサラダを口にしてゆく。
確か外国育ちの帰国子女だった筈。だがフォークを用いず、箸使いは自分よりも正しく器用だ。
刻んだキャペツとレタスとキュウリに摩り下ろしにんじんをベースにしたドレッシングで絡め、そしてタンポポ。
「この時期、春先の旬が一番なんです」
生のままの黄色いタンポポの花、下湯でによって灰汁を抜かれて柔らかくなった葉と茎は一口大に。
タンポポを食べている。僅かに微笑んだような喜の表情で。
掛かり気味のペースである筈だが、楚々とした乱れの無い所作で食している。しっかりと静かに咀嚼して嚥下。

自分ではただの雑草程度で食べるとは認識してなかったそれを平然と食べている。
芝5メートルをムーンウォークしながらゲート入りしたゴールドシップのような奇行種ならば
野球マンガの如く口に咥えるくらいまではするかもしれないが。
身体が欲する物、身体に近い物、生命力が高い物、相性の良い物。
スポーツ栄養学の余談で中国の食文化において発達した漢方や
薬膳について講師が話した事を思い出した。
タンポポを補給している。
一息つくかのようにコンソメスープを口にするが、啜る音は聞こえない。
「天ぷらも良いですよ。根は細かく刻んでフライパンで炒ってから煎れるとコーヒーに似た味になりますし」
カフェインレスのタンポポコーヒー、聞いたことがある。
上級生に憧れたウマ娘がミルクも入れずに口にして無理をしていたのも見た事があった。
グラスワンターの食欲が再び走り出す。
オーバルの器に残った野菜は三分の一を切っているのに箸を進める勢いは止まらない。
ブラックホールと称される胃袋でカサマツトレセンを追い出されたと噂されたオグリキャプ。
目の前で展開している光景はアレとはまた別の次元で異常だと感じた。

衝撃的な光景から意識が揺らいでいる内にグラスワンターは完食していた。
箸を揃えてトレイに置き、紙ナプキンで口元を押すように拭って汚れを内側に折る。
「ご馳走様でした」
食後の合掌。食材に生産者に調理者に感謝の礼。奥ゆかしい所作だった。
野菜とタンポポの円弧を確定勝利したグラスワンダーが席を立つ。
何気なくこちらを見て、ふと気が付いたように言う。
「そのお花、頂いてよろしいですか?」
何所に花などあるだろうか。あるのは顔の鼻程度で、花瓶や一輪挿しは置かれておらず、
身に着けいているアクセサリのデザインに花は無い。
視線を辿った先は自分が平らげた刺身が盛られていた大皿だった。無言で手の平を皿に向けて促す。
彼女は指先で黄色い花を摘み、接吻するかの如く唇で咥え、食した。
「はしたないですね、私。ふふふ」
目を細めて柔らかく笑って恥らう。
お先に失礼します。そう言って軽くなったトレイを手にして下げ膳場へ向かって行く。
「美味しいですよ、タンポポ」

席など幾らでもある状況でグラスワンダーが自分の前に座った理由。
「この花をだけを狙っていた」、それだけだった。
ふと違和感がよぎる、大根のツマの上に載っていたのはタンポポだっただろうか?
グラスワンダーがサラダとして食べていた花とは形が違うような気がした。
一般的に用いられるのは食用の小さな菊。
それを判っていたのなら、菊花賞に向けての精神的な牽制、宣戦布告だったのかもしれない。
ゴールドシップが見せた夢か幻術であって欲しかったが、平然とラーメンを啜る破天荒の姿は目の前に居ない。
現実は非情である。
今頃なら寮の浴場も空いているだろう。
入浴を済ませて、温泉旅行で浴衣を着て海産物の豪華な夕餉で
トレーナーにお酌するシュチエーションを妄想しながら寝よう。
彩りが一つ消えた大皿をトレイに乗せ、下げ膳場へ向かった。

原作のグラスワンダーが牧場でタンポポを食べている
動画を見たら何故かこうなってしまった
BGM:メタルギアソリッド３ OP曲　Snake Eater

どうかしてるデース…

澄ましてるけど人が残したエビフライの尻尾食うようなもんだろ
いやいやいや

まあ一応タンポポは花・葉・根と全草食べられる植物で
食べられる野草・山菜の本などにも載ってるが…普通生で花を食べたりはしないと思うの

いやしんぼデース！

高度すぎる心理戦…

ﾀﾝﾎﾟﾎﾟｲｰﾀｧｧｧ--

壮大に小食事をしている...

>美味しいですよ、タンポポ
カブトムシみたいなこと言っててダメだった

モブウマ娘目線怪文書初めて見た

コワ〜…

誰とか決めずにタンポポイーターを書いたけど
賢そうなイクノディクタスあたりが被害者かもしれんね

興味はない

刺身に乗ってるのが菊だとわかる相手じゃないと通じない威嚇だし相手選ぶな……

曲が壮大なラブソングすぎる…