「やー……なんかスッゲエもん見ちゃったよね〜」
「シリアスヤバヤバー！って感じ。参るわ〜ああいうキキセマなのって」
と、そこにメジロパーマーさんとダイタクヘリオスさんが入ってきました。
二人とも何やら困惑顔です。
「テイオーのやつ、なんで泣き顔で校内中爆走してんの……」
「や、なんか？トレーナーとひと悶着あったらしいよ？」
「あー……トレセン名物・走る方向性の違いってヤツ。久々に見る炎上案件ヤバー」
「いやあ、そっちじゃないっしょ。痴情のもつれの方」
「マジで！？」
「こっちの勝手な想像だけど。けどその方が納得いかない？あのテイオーが走りでトラブルことないっしょ」
「確かに……。じゃあ修羅場？修羅場ってんの？」
「いやもう破局じゃね？あの投げやりランナウェイはさー」

青天の霹靂でした。
あのテイオーさんが……破局！？
天才で。カッコ可愛さを小柄な体型と性格で見事に体現していて。歌とダンスも抜群なアイドル性も持ってて。
そんな三ツ星ウマ娘のテイオーさんが破局ですとぉぉぉーーー！？！？
え、恋愛ってそんなに難しかったんですか！？あれだけのスペック誇ってても失敗するんですか！？
「ふぎゅぎゅぎゅ……」
だったら私なんかが成功するわけないじゃないですか！自惚れてました。身の程知らずでした。
考えてみれば当たり前のこと。走ることと男女関係とは全く必要な才能が違うんです。恋はダービーじゃないんです。

「なのに私ってば、見当違いに自信を持ってしまって……」
オロオロと桜を見上げると、突風が吹いて花びらは残らず散りました。
「フンギャアアアーーーーーーッッ！？！？」
まずい！このままではまずいです！！このまま強行しても無惨に恋破れるのは火を見るよりも明らか！！
かといって告白をあきらめることはできません。さすがに明日は無理だとしても、想いはトレーナーさんに伝えたいのです。
でも私の実力じゃ……実力でどうにもならない時は──！！
「困った時の……神頼みぃぃぃーーーー！！！かしこみかしこみっっ！！！！」

「縁結びのおまもり！ブレスレット！……あ、こちらの木彫りのエンジェル像も！」
それから数日かけて、これまで集めた開運グッズの山から少しでも恋愛運に関わるものを選別します。
ううっ、それでも全然足りる気がしません！私ごときが恋愛成就を叶えるには、大吉を越える超吉！！
ギャラクシーレベルの運気が必要なのですっっ！！
「今月のお小遣いでこれと、これと、こっちも……ふぎゃ！クレジットが足りない！？」
贔屓にしてる開運グッズサイトで色々ポチッてみましたが、数点買っただけで資金が尽きてしまいました。
効果の高いグッズほど値段も相応にしますから。……そう、これだけつぎ込めば相応の効果はあるはずなんです。
でも。足りない。足りない。足りません！！
揃えても揃えても、本当にこれだけで大丈夫かと不安ばかりが募っていきます。

この恋だけは成功させなきゃいけないのに。なんとしてでも叶えたいのに……。
「うぐ、うぐぐ……ううぅぅ〜〜〜〜〜！！！──皆さんっ！！」
輪を作って談笑してるクラスメイトの元へ、私は駆け寄ります。
「ど、どうか私めにお力添えを！何卒、何卒ぉぉぉ〜〜〜〜っ！！！」
「え、ええ！？フクキタル、なんで涙目になってんの！？」

今日は神社でおみくじです。
「…………うう、また末吉」
手からハラリと滑り落ちたおみくじが、足元の山に加わります。
そう、山です。さっきから何枚も引き続けています。
本来あるまじき行為ですが……それでも大吉を引いておきたいんです！それもラッキーセブンで７枚分！！
なのに末吉、末吉、末吉！逆にすごいです！運気が急カーブで下がっていってるのを感じます……。
「うう、次こそは……わひゃ！？」
お金を入れようと伸ばした手が、横から伸びてきた手にガッシリと掴まれました。
「フクキタル……何やってる？」
「トト、トレーナーさん！？」
そう。私の手を掴んだのは、今一番会いたくて一番会いたくない人でした。
「こ、これはですね……にゃはは」
笑ってごまかそうとする声が無意識にフェードアウトします。
トレーナーさんは、今まで感じたことのない怖い雰囲気を漂わせて私をジッと見てました。

「ちょっとトレーナー室まで来い」
「えっ、はわっ！！？」
強引にワタシの手を引き、トレーナーさんは歩きだします。
ウマ娘である私の力なら踏みとどまることも簡単なのですが、ピリピリと発するものに飲まれて逆らうことができませんでした。

促されて座ると、トレーナーさんは私を見下ろして視線を投げかけてきます。
「……あの…………」
「お前、あちこち借金してまわってるらしいな？開運グッズを山ほど買うために」
「ふぎゅ！」
反射的に身をすくめてしまいます。ば、バレてしまいました……。

「あ、あの、もしかして学園側から何か……？」
親呼び出し。停学。ひょっとすると退学。そんな考えが頭をよぎります。
「まだ学園側にまで事情は届いてない。寮長、それに生徒会の段階で通達を止めて俺に教えてくれたんだ。温情に感謝しろよ」
「そ！そうですか〜……ホッ」
「ホッとしてるんじゃない。なんでそんな行為に走った？」
「そそ、それは──」
言えませんよ。その理由を口にしてしまったら、それはつまり……。
「……………………」
「…………そうか」
視線を逸らして押し黙ると、トレーナさんはポツリと呟いてドアへと向かいます。

「これからもお前のトレーナーでいたかったんだがな」
「へ？そ、それってどういう──！？」
「お前が事情を話してくれない以上、俺には手に負えない事態だから学園運営側に通達するしかない。
　そしてそうなれば、俺も責任の一端を負わされるだろう。お前の担当から外され最悪は……解雇で学園を去るかもな」
「フンギャロッッ！？！？そそそそそ、そんなあっっ！？！？」
私のせいでトレーナーさんがっっ！？
「ウ、ウソ、ウソですよね！？私の前からいなくなったりしませんよね！？」
追いすがって背中を掴みますが、トレーナーさんは全然止まってくれません。
どうしよう。どうしよう。シラオキ様、シラオキ様………っっ！！
「わぁああああーーーーーん！！！すびませんでしだぁあああああーーーーっっ！！」
神頼みも空しく、私は泣き出すしかありませんでした。
「トレーナーさんのことが好ぎなんですううぅーー！！だから、グス、どうじでも恋愛成就させだくでぇぇ〜〜！！」

ああ……言っちゃいました。
そうですよ。事情を説明するってことは、告白することと同義じゃないですか。
あれだけ入念に準備しようとしたのに。結局は、想定の底を突き破るグダグダで最低のものになってしまって。
やっぱりボロボロの結果じゃないですかぁぁ……。
「ドレーナーざあぁん………うぐっ、ひゅぐう……」
足こそ止めてもらえたものの、この先どうすればいいのかなんて分かりません。
ただ涙と鼻水を流すだけの雨模様。今の私には天気運すらありま──ふむぎゅ！？
「まずは落ち着け。ほら、鼻」
トレーナーさんがティッシュを顔にグリグリ押し付けてきました。
なかなかに粗雑な手つきですが、今すべきことを与えられたことで私は少し救われました。

「ちょっとは落ち着いたか？」
「はい……」
再び椅子に座らされ、渡されたティッシュで鼻をかみ──どうにか涙も引っ込みました。
でもやっぱり、どうしたらいいのか分かりません。
「なあフクキタル。クリスマスに俺が何を渡したか覚えてるか？」
ただ下を向いてもじもじしてると、トレーナーさんが唐突にそんなことを訊いてきました。
「へ？あ、はいっもちろん！指輪を頂きました！」
私の誕生石。かけらほどの小さなエメラルドをあしらった指輪。
「その時言ったよな？いずれちゃんとした大きさのを渡すから、今はそれで我慢してくれって」
「はい、それも覚えてます。でも大丈夫です。パワーストーンの効果は大きさとは関係ありませんから」
私の言葉に、トレーナーさんは深々とため息をついて。そして白い目で見つめてきます。
え、え？何かまずかったでしょうか。あの指輪には別の意味が？
指輪。誕生石の指輪。開運リングじゃないとしたら……。
……。…………。……………………。…………────っ！！？

『その可能性』に気付いた瞬間、私の顔はボンッ！と音を立て真っ赤に染まりました。
「……え？はえっ……えっ？あの、あのあの、あれって、まさか、こ、こん、や、く……？」
「分かってて喜んでくれてると思ってたんだがな……」
「はえぇえええええーーーーーーーーっ！！！！」
ウソウソ！？全然気付いてませんでした！！！どうしましょ？どうしましょ！？と、とりあえず……
「あの、えっと。トレーナーさん……」
「なんだ？」
「ふ、不束者ですが……よろしくお願い、します……」
「……ああ」
わわわっ、きゃああ〜〜♡♡まさかとっくに両想い、いえそれを飛び越えてゴールインしていたなんて！
道理でシラオキ様は何も助言を授けてはくれないし、グッズをいくら用意しても運気を感じなかったはずです！
ああ、ああ……やはり初心で間違ってなかったんです！自信を持ち挑めば、そこに道は拓けてるんです！！

「フニャけてる場合か？」
「フンギャロッ！？」
そ、そうでした。恋愛は見事成就できましたが、大きな問題が残ったままでした。
「借りたお金、返さなきゃですね。お小遣いから少しずつでも返していきます」
「……フクキタル。お前、把握してないのか？」
「はえ？」
「寮長が関わった生徒ら相当数に一人一人に尋ねて、出した総額がだな──」
「……フンギャアアアーーーーーーッッ！？！？」
　一気に血の気が引きました。トレーナーさんが示したそれは、学生がどうにかしていい金額を遥かに逸脱してましたから。
「どどどど、どうしましょう！？私、そんなに借りたつもりは……！返す手段なんてぇ〜〜……」
「手段はある」
「ホ、ホントですか！？」
心強い言葉に勢いよく立ち上がります。さすがは私のトレーナーさん！まさに抜苦与楽の御仏様！！

「レースの賞金を返済に充てるんだよ」
「なるほど！……え、でも出走手当じゃとても……」
「だからな？」
私の肩に手を置いて、トレーナーさんは凄まじい微笑みを見せました。すごい重みを肩に感じます。
「優勝するんだよ。運任せは絶対やらせん。実力で確実に勝利してもらう」
そう言うが早いか、すれ違うように首根っこを掴んできて引きずり始めます。
「たった二か月しかないんだ。それまでに優勝狙えるように仕上げてやるから……覚悟を決めろよ？」
「ほんぎゃろおおー！！？今から？今からですかあぁーーー！！！？」
「当たり前だ！一秒だって惜しいんだよ！！」
「ご、ご慈悲を！トレーナーさんっ！トレーナーさぁぁん！！」
駄目です、ジタバタもがいて許しを乞うても意に介してくれません！
こうなったトレーナーさんは一切耳を貸してくれませんが、これだけは、これだけは……！

「トレーナーさん！一言だけ！」
「……なんだ？」
「わ、私、幸せですっ！」
トレーナーさんはこちらを一瞥して、チッと舌打ち。
「俺もだよ」
すぐ前に向き直りましたけど、頬が染まってのが分かりました。
ふくふくふくふく、フクキタル。
こうして私は、天にも昇る夢心地で地獄に連れて行かれるのでした。

いい…

ほんとフクは下げて上げるのが似合うな

おわりです。行数制限にひっかかって想定よりレス数が増えてしまった…
あとフクキタルのエミュって難しい

ちなみに以前書いたこれの別サイドです　su4767700.txt

財布と引き換えに福が来た
いやとっくに来ていた…

借金の話聞かされた時は真っ青になっただろうな

私の性癖には合いますね
ところでテイオーさんは…？

いいじゃん…

>ところでテイオーさんは…？
上にあるテキストファイルをご参照ください！

軽い気持ちで覗いたらフルコースみたいな量で嬉しいけど騙されてないか戸惑ってる

フクちょっとクソボケすぎない？
指輪渡されといて告白決意ってお前
あと金貸してくれる友人は大事にしろよ…

>オロオロと桜を見上げると、突風が吹いて花びらは残らず散りました。
ここでダメだった

貸してくれる金額って信用と引き換えだから返せそうにないくらい借りれるのって友だちに恵まれてるな…
でも返す充て考えてから借りろよな！

>フクちょっとクソボケすぎない？
>指輪渡されといて告白決意ってお前
>あと金貸してくれる友人は大事にしろよ…
まあ割とフクちゃん自分の見たい物しか見ない癖があるから…

ウワーッ！テイオーの見たいのに文字化けしとるーッ！！

クソッ！幸せになれよ！

一人で勝手にワチャワチャやってるのが可愛いなぁ

>ウワーッ！テイオーの見たいのに文字化けしとるーッ！！
名付けて保存で読むことができますよ

マヤが良い娘の奴かよ！
あの後どうなったか言われてないよね？

文字化けは自分で対処できるからやりなさい

これでレースで優勝できなかったらバッドエンドなんだね…

怪文書タグつけたいけどホスト規制されててつけられない…

テイオーはひたすら甘酸っぱいな…

お姉ちゃんとシラオキ様はどうして借金がかさむ前に止めなかったの…

一応テイオーの方をログでもうｐしましたのでどうぞ　su4767800.rar

>これでレースで優勝できなかったらバッドエンドなんだね…
最悪トレーナーが立て替えてなんとか…なんとかできるかな…（アイアンクローしながら）

適当にキャラソン流しながら読んでたらちょうどフクキタルの流れてきて本当にいい曲だなって

発端にされるテイオーでだめだった
トレーナー今後もずっと苦労しそうだな…学校に報告あげて終わりにできないのは惚れた弱みか…

100億万点つけたいフクキタル怪文書ありがたい...
フクエミュが見事

スパッとしゅばっとババっと幸せになってしまいましょう！ﾊｲ！

寝る前にいいフク成分を補給できた

フクっていざ書くと難しいんだよな

フク理解深めるために壺買うか

>走ることと男女関係とは全く必要な才能が違うんです。恋はダービーじゃないんです。
と
>だったら私なんかが成功するわけないじゃないですか！自惚れてました。身の程知らずでした。
とが同時なのがフクキタルちゃんらしいですね

>フク理解深めるために壺買うか
買うな

フクちゃんは甘酸っぱい幸福なカップルしてるのは容易にイメージできるけど 夜の床のイメージが全くわかない…抱きついたり撫でられるだけで満足してそう

ヤダ…イケメン…

>フクちゃんは甘酸っぱい幸福なカップルしてるのは容易にイメージできるけど 夜の床のイメージが全くわかない…抱きついたり撫でられるだけで満足してそう
シラオキ様が上手い感じに周辺の天気とかいじってフクが一番綺麗に見える月明かりの入り方とか用意してくれそう

エビス顔の満面の笑みとか 水晶一着ドヤ顔とか ハッピーカムカムとかフクちゃんどれも可愛いけど winning the soulの普段絶対見せないであろうかっこいいフクキタルもいい…

ご令嬢のメジロドーベルさんやメジロパーマーさんからいっぱいお金を借りてそうですね

総額でびっくりする程の金銭を
それでもフクになら貸しちゃうんだろうな皆…理由も理由だし

御令嬢系の子が恋のため！とかのぼせ上がって深く考えずに貸しちゃったんだろうな…

オカルトに金貸すのはどうかと思うよ！？

>御令嬢系の子が恋のため！とかのぼせ上がって深く考えずに貸しちゃったんだろうな…
フクちゃんの人望と言うかなんというか…