「ラスト一本!気合入れて!」 「よーーっし、いっくぞ〜〜〜!」 トレーニングの締めくくりとは思えない、疲労を感じさせない速度でテイオーが駆けていく。 フォームにもコース取りにもブレのない、申し分ない走りだ。タイムも悪くない。 「よし!今日のトレーニングはこれで終わり。お疲れ様、テイオー。」 「おつかれ!」 問題ない。いつものトレーニング終わりだ。何もおかしいところはない。 「今日はもうおわり?」 「あーいや……その、昨日……できなかったミーティングを……。」 そう、昨日あんなことをしたテイオーが何もなかったかのようにトレーニングをしている。 ”マッサージの途中で寝た自分が見た夢だったのでは”と疑うほどに。 現実だと確信が持てず、どういうわけだったのか聞くに聞けなかった。 「あーそっかあ。トレーナー、昨日マッサージした後、悪戯したらぐったりしちゃったもんね。」 「……!」 だが、彼女は昨日の事を事実だと認めたうえ、なんでもないことかのように語る。 さすがにまずい。注意しなければ。 「テイオー。注意が遅くなったけどあんなことをしちゃいけない。」 「え、なんで?」 「その、ああいうのはね、好きな人に……」 「ボク、トレーナーの事好きだよ。」 息を飲む。その隙に畳みかけられる。 好きだからマッサージしてあげた 好きな人が不摂生してる だからお仕置にちょっと大人のキスをした それだけじゃん なにかへん? 「え……いや……へんじゃ、ない?」 「でしょ?もートレーナーってば潔癖?よくないよそういうの。」 あれ……俺が変なのか? 俺に恋愛経験がないだけ? 「それともトレーナーはボクのこと嫌い?」 「そんなことはない。ないけど……」 ないけど、なんだ?そういう対象として見れない? すでに意識してるのに? 許されない?そうだ、学内の規則で…… 「別に不純異性交遊ってほどでもないじゃーん。キスくらいちょっとしたことだってー。」 「……そう、かな。」 「そうだよ。ほらミーティングでしょ?URAも優勝した無敵のテイオー様の今後のレースプランも練らなきゃ!」 考えのまとまらない俺の手を握るテイオー。 そのまま連れられてトレーニング室に向かう。 トレーニング室の扉をテイオーが開ける。 「ほら入った入った!」 「あ、ああ、ありがとう。」 「ところでさ、トレーナー。」 「……なに?」 トレーニング室の扉をテイオーが閉める。 「昨日はボクの言った通り……ちゃんと家に帰って寝た?」 トレーニング室の扉にテイオーがカギをかけた。