父さん、母さん、お元気ですか。 中央でやっていこうと決意して、俺が故郷を出てから暫く経ちましたね。 前に手紙を出して、早三カ月。 その時は何を書いていたのか、もう思い出せません。 それくらいに、中央での日々は色々な事が起きて、毎日いつも目が回りそうです。 ですが、とても充実しています。 俺が担当しているウマ娘のトウカイテイオーについては、前の前の手紙に書いたのを覚えています。 明るく騒がしい、良い子……というのも、その時に確か書きましたね。 彼女と共に歩む日々は、忙しなくも得るものが多い日々であると、確信しています。 一時は、才能溢れる彼女と、俺なんかが共に居て良い物なのか。 本当なら、もっと優秀なトレーナーと高みを目指すべきなのではないか。 ……そう、悩んだ事もありました。 そんな悩みを吹き飛ばしてくれたのは、なんと彼女でした。 俺が良いのだと。俺以外の下で走る気なんて無いのだと。 なんとも情けない事に、何歳も年下の子に元気づけられてしまいました。 なんというか……本当に、俺には勿体無いくらいに良く出来た子です。 分不相応だと思います。それでも、俺を選んでくれた事が嬉しい。 期待に応え、今度は俺が彼女の寄る辺になれるように。常に学習、進歩を止めぬように。 彼女と共に……いや、追いつくために、それ以上の速度で。更なる成長を目指し努力を続けています。 ……そういえば、そんな彼女も、やはり年相応の女の子なようで。 実は少し前に……「好きな人が出来た」……と言われました。 彼女にも、ついに春が来たらしいのです。 曰く、彼女の事を誰よりも知っている人物。 曰く、ずっと一緒に歩んでいく。 照れから頬を赤くしつつも、はにかみながら俺を見て話す彼女。 ……思わず、泣いてしまいました。 誰よりも幸せになって欲しい彼女に、そんな頼もしい人物が居たのです。 それがどうしようもなく嬉しくて、胸の奥から溢れてきた物を止められませんでした。 突然泣き出したせいで、滲む視界に慌てる彼女が映っていました。 ……大の男として、彼女には情けないところを見せてばかりな気がしますね。 どうしたの?と聞いてきた彼女へ、素直に「嬉しいんだ」と伝えました。 すると、認められて嬉しいのか、笑ってくれました。 居ても立っても居られず、その日はトレーニングを中止して、二人で遊びに出掛けました。 記念……というヤツでしょうか。嬉しいという気持ちのまま、彼女の手を引いて出てきてしまったのです。 当事者でもないのに有頂天になっている俺に、黙って付いてきてくれる彼女。 目が合うと、心底幸せそうに笑うんです。 それがまた、俺を動かす原動力になって。 ゲームセンター、ショッピングモール。その中にある、普段は行かない、ちょっとお高いレストラン。 とにかく彼女に喜んで貰おうと、色んな場所を回りました。 彼女はずっと笑ってくれてましたが、最後には泣き出してしまったのです。 どうした!?と慌てて聞いた俺へ、「嬉しいんだ」と。 「嬉しすぎて、幸せすぎて、ボクもう、胸がグチャグチャだよ」 そう言って泣きながら笑う彼女は、とても綺麗で、胸を打ちました。 「また来ようね」と言われましたが、きっと行く事は無いと思います。。 次に訪れる時は、彼女と“良い人”の二人だけで。思う存分、楽しんで貰いたいものです。 まぁ、ちょっと名残惜しい気もしますが、それが一番良いでしょう。 ……そういえば。あの日はなんだか、朝から彼女が妙に綺麗だった気がします。 恋という物は、少女を大人に変える……とは、何処かで聞いた事があります。 俺は、恋とは無縁な人生を送ってきたので今までわかりませんでした。きっと、真実なのでしょうね。 つまり、それくらい彼女は魅力的なのです。 いつか、父さんや母さんにも紹介したいですね。 ……そうだった。こうして筆を取ったのは、その事についてなのです。 今度、そっちの近くのレース場に遠征に行くので、その際に帰省しようと思います。 もちろん、勝ってトロフィーを掴んだ彼女を連れていく予定です。 ですので、なるべく人様に見れるように掃除を……特に俺の部屋の掃除をお願いします。 近況報告と帰省の連絡だけの筈が、なんだか長くなってしまいましたね。 それでは、また。今度は故郷で会いましょう。