ああ、いけないいけない。考え事をしてたらボーッとしてました。
「なんで返事してくれないの！」
「あはは、ごめんごめん」
「…私たちとのかけっこ、楽しくないの？」
私はハッとしました。娘たちみんな、目に涙を浮かべているではありませんか。
「ごめん、そういうわけじゃないんだよ」
「じゃあなんで！」
ああ、私ったらどうして。あんな返事をしてしまえば、みんなを怒らせるのは分かりきっているのに。
グラスちゃんを怒らせた宝塚記念の時と同じことを、私は繰り返してしまいました。
「お母ちゃんは日本一のウマ娘だったんでしょ！？」
「…うん」
「だったら私たちのことをコケにしないで！私たちみんな、お母ちゃんみたいな強いウマ娘になって…それでいつかはお母ちゃんよりも強くなって、お母ちゃんに出来なかったことをするの！お母ちゃんの分まで精一杯走って、その姿をお父ちゃんに見せつけてやるんだもん！」
そう、私は娘たちの夢というのをまるで顧みなかったんです。それがどんなに悲しいことかを思い知っていたはずなのに。
「そしたらいつか、お父ちゃんの愛バは私たちになるもん！」
あっ今キレました。

「なんて？」
「お母ちゃんったらお父ちゃんがやって来たら、いの一番に甘えるんだもん！」
「私たちだって甘えたいのに！」
「あれじゃ奥さんじゃなくて娘だもん！私たちの立場を奪わないでよ！」
なんですか！妻が夫に甘えちゃいけない法律なんて、私は古今東西で聞いたことがありませんよ！
「まして勝負服を着れなくなったウマ娘のことを、未だに愛バと呼ぶパパはおかしいと思う」
「だから私たちがお父さんの目を覚ましてあげなくちゃ！」
「ママ…ゴール手前で明らかに流してくるのは、たとえ優しさのつもりでも挑発だからね？」
く、くく。言わせておけば！
昔取った杵柄というのがあります。ふふ、それでなくてもやめてほしいですよね。本気でレースしたら、今のあなたたちが私に敵うはずないでしょう？
「あっ、わかった」
「うん？」
「お母ちゃんったら、もし全力出して負けたらカッコ悪いって怖がってるんだ」
うふふ、あはははは…誰ですか！娘たちに口撃なんて教えたのは！
あー…そうだ、いつだったかエルちゃんがここに来てたじゃないですか。挨拶の代わりに挑発を教えるような子、娘たちの教育に悪かったです！

「…そこまで言うなら全力で走ってあげる」
「うん！お願い！」
不安がなくなったわけではないですけど、今はそれどころじゃありません。
そこまで煽られてやっと全力を出す気になった自分がただただ情けなかったものですから、思い切り走って振り切ってしまいたかった。
そしたらどうですか。自分でも驚くほどに速く走れる私がいたじゃありませんか。

走り終えた私の前に、待ち構えていたようなタイミングでトレーナーさんが現れたんです。
「スペ。気持ちよかったか？」
「はい！」
大差をつけて勝ったのは我ながら大人げないなって思いますけど、全力を出して欲しいと言われたから仕方ないですよね！
「そうか。それじゃあ現役復帰、してみるか？」
「もちろんです！…えっ」
「そうかそうか！おーいみんな、お母ちゃんが復帰するってさ！」
「わーい！これでもう、グータラするお母ちゃんにガッカリしなくて済むね！」
あれ？ひょっとして私、嵌められたんですか？オレハマッテルゼってやつですか？そんな、今更ハードなトレーニングなんてやりたくありません！い、いやぁ…！近づかないで…！

ウワーッ身内修羅場ーッ！

スペちゃん。？どういうこと。？

娘扱いしてた子との幸せ家族計画は私の性癖に合っていますね

トレーナーの愛バはスペ先輩だけじゃないわよ！！！！！！

人間に騙されるスペちゃん…

アプリスペちゃんのグッドエンドの続きが来たと思ったら子供産まれてる…

ケ！？

ブエっとした娘がいるな

またお母ちゃんになれば復帰しなくて済むかも…！？

お腹が膨らんでそうだな…脂肪で

スペぇ…

>またお母ちゃんになれば復帰しなくて済むかも…！？
そんな悪魔的発想が私の脳裏を過りました！
でも流石に無理です！だってもう17児の母ですよ！？
第一トレーナーさんはパイプカットしてしまって…ですがそのお陰で、一切の気兼ねなくうまぴょい出来るようになったとも言えますが！
うっ！お腹が痛くなってきました…。
──怒るよ。
私に取り付いた霊のふたりが囁いてきます！
早く成仏してくださいよ！何が面白くて引退後の生活に一々ダメ出しされなくちゃいけないんですか！
特にお母ちゃん！ああ、あんなに会いたかった顔なのに…今となっては姑みたいで困ります！
日本一のウマ娘になる夢なら叶えてあげたじゃない！
「昔の話でしょうに」
「そうそう。今のあなたじゃ、休養明けの私みたいにオープンで惨敗しちゃうわよ」
いい加減ノイローゼになりそうです…！またトレーナーさんに撫でてもらわないと…！

>でも流石に無理です！だってもう17児の母ですよ！？
なそ
にん

>でも流石に無理です！だってもう17児の母ですよ！？
なそ

うみ
すぎ

フルゲートする気か

自分含めてフルゲート出走か…

なんでパイプカットしてるの…

作りすぎたし歳だから種牡馬引退で騸馬になったんだな…

待ってスペちゃん誰と霊界通信してんの

Wお母ちゃんだろう

>待ってスペちゃん誰と霊界通信してんの
話しに繋がりがあるならもう一人のお母ちゃんとトレーナーさんの元愛バ

また一度にたくさん妊娠したのかな

私のせいではありません！タキオンさんが興奮剤の作用もある不妊治療薬を開発したのが悪いんです！
私はその、スズカさんがいなくなった寂しさを共感し合えるであろうトレーナーさんと、スズカさんのいない日々をどう過ごすか一緒に考えていただけで！
色々あって私に展開が向いた所だというのに、突然継承開始を試みるのはひどいですよ会長さん！
トレーナーさんの不妊治療だって元はゴルシさんが考えていたことなのに…焼きそば売ってたりしてたのだって、新薬開発の資金稼ぎでやっていたことなのに！
ノー！ルナダメ！マネーパワーキンジラレタチカラ！
ゴルシさんの敵を私が討ったまではよかったのですが、薬で強化されたトレーナーさんの力はたとえウマ娘でも敵うすべがなく…！
以上があらすじになります！

会長はもうトレーナーさんと自分の遺伝子を混ぜるためにはなりふり構わなさそう