風は無人の廃墟を撫でていく。戸を一つ一つ叩き、窓枠をくぐり抜け、屋根を跨いで。 死の臭いが、風に乗って舞う。有毒な霧が、それと混ざってじめじめとした湿地帯を覆う。 少女は辛うじて、己の命一つをそこから拾い出した――だが仲間は散り散りだ。 丘の上から、無残な姿になった故郷を見ると――自然に嗚咽が漏れる。どうすれば? 彼女のように救い出された生き残りも、どこかにはいるのかもしれない。 それを女の身一つで、どう探すのか――その疑問に帰ってくると、また力が抜ける。 ひとまずは傍らの杖を頼りに、身を起こそう――そう考えて手を伸ばすと、 ちょうど、少女の目の前にその杖が伸ばされた。仲間だろうか?礼を言おうとすると、 杖はひゅっ、と意地悪く引っ込み、代わりにそれを握った緑肌の小鬼が牙を見せて笑った。 返して――そう言うより先に、少女は湿った草地の上に激しく蹴倒された。 一匹ではない。二匹、三匹、いや、もっと、ずっと――そんな数の小鬼たちが、 傷心の彼女を取り囲むように、いつの間にか集まっていたのだ。露に触れ、鳥肌が立つ。 一匹一匹は、さほどの膂力もない。平常時の彼女ならば、追い払うのも容易だ。 だが故郷と仲間とを失って精神の均衡を欠き、得物を取り上げられているとなれば、 彼女は単に、一匹の“雌”にしか過ぎない。抗う力をも失った、哀れな―― それを思い知らせるように、小鬼のうちの一体が彼女に馬乗りになりながら髪を掴み、 顔面を草と泥塗れにさせて、残り僅かの気力をも根こそぎ奪っていくのである。 彼らの要求はただ一つ。そしてそれは彼女にはとても受け入れられないものだった。 髪を引っ掴まれて地面に押し倒されながら、少女は着慣れた一族の衣を剥ぎ取られていく。 白い外套は余りにも無力に千切られて、その下の黒い肌着から何から、全てが襤褸布に。 そして残った、女性らしい若く艶めいた肌に小鬼たちは歓声を上げるのであった。 彼らにとって、自分たちの緑の肌と違う雌は、ただでさえ得難いものである。 それがみすみす一人で無防備に呆けていたのだから、そちらが悪いと言わんばかりだ。 彼らにとって雌は受け身で雄からの欲求を受けるべきものでしかなく、 それが嫌なら、全力で立ち向かって追い払うのが礼儀――そんな文化を持っている。 ならばこそ、今になってこうして暴れるような女は、彼らの道義上最も唾棄すべきもので、 早めに“身の程”を教えてやるのが、むしろ彼らの文化では親切に当たるのであった。 裸に剥かれた少女は、その齢に比しては大きめの尻をくねらせながら暴れるが、 既に彼女を組み伏せた小鬼たちからすれば、それは交尾をねだる腰つきにしか映らない。 まずは一匹が、がっしりと尻たぶにしがみついて――己の槍をすっかりそり立たせながら、 一番槍をあげる喜びに吠え、身体ごとがくんと打ちつけるようにして挿入を果たした。 純潔を奪われた痛みに悶える――しかし彼女の口には既に轡が噛まされていた。 彼女の羽織っていた外套の成れの果てを、細く乱雑に引っ張っただけのものが。 背を反らせて逃げようにも、馬乗りになった小鬼が器用に彼女の動きを制して、 何度も何度も、意に反して地面にその顔を叩きつける。心をへし折ってやるために。 少女の背丈は、小鬼たちの倍はあろうが――こうして完全に御されていては その体格はむしろ、頑丈な孕み袋になりうる証として、彼らを喜ばせるだけであった。 一際強く草地に顔を押し付けられたと同時に、尻に張り付いていた一匹が身を痙攣させ、 胎内に熱いものを送り込んでくるのが感じられた――だが、それに抗う気力もない。 “馬”が大人しくなったと見るや、背中に乗っていた一匹はひょい、と飛び降りて、 赤く腫れた膣口から覗く純血の跡と、混ざり合った白とに舌なめずりをする。 彼がずぶり、と己の性器を埋めて腰を振り始めても――少女はがっくりと地に伏せて、 己の行く末に対する、朧げながらも本能的な恐怖に涙することしかできなかった。 小鬼の一匹一匹は、確かに弱い。だが群れで棲むことが彼らの強みであり、 また同時に、その群れを維持するためには、それだけ多くの仔を生すことが必要だ。 彼女のように、“外”から連れてこられた雌の役割は、ただ一つしかない。 首輪、手枷、足枷――巣に連れてこられた少女が着るのを許されたのはその程度だ。 そして轡も、あり物の襤褸布ではなく、金属となめし革から作られた頑丈なもの。 それらによって、岩肌に身体を括り付けられていては、女の力ではとても抜け出せない。 常に何匹もの小鬼たちに、食事、睡眠、排泄までの一切を監視・支配されていくうちに、 少女は自分がどんな存在であったかさえ、次第に朧気になっていくような気がした。 まして、彼女と故郷とを繋ぐ杖だとか――宝珠だとかは、小鬼の玩具となっている。 ひたすら、朝も夜もなく、彼らが擦り付けてくる性器を受け入れ、膣内に射精され―― 気絶すればまた檻に繋がれる。その繰り返しが、少女から時間の感覚を失わせていった。 小鬼たちは数日ごとに、少女をわざと檻の中から出す。無論、逃がすためではない。 背中にはやはり一匹の小鬼が馬乗りになって首輪に繋がる鎖を握って彼女を御し、 四つん這いで洞窟の中を歩かせるのだ。手枷と足枷とをしっかり付けさせたまま。 結果として、一歩一歩の幅は微々たるものとなって、ゆっくりとした動きを強制され、 それだけ長く、彼女の恥辱は続く。観衆の中には、性器をごしごしと擦りながら、 噴き出た精を彼女の肌に当てて遊ぶようなものもいる。垂れた乳房は高得点――だとか。 そして一周終われば檻に戻ることを許されるが、当然、その見世物で小鬼たちは興奮し、 全身に雄の欲を塗りたくられた彼女を、競って犯しにやってくるのである。 助けを求めたとて――仲間に聞こえるわけもなし、誰ぞの現れるわけもなし。 ここに繋がれてもう何日だろう――いつから――いつまで――? しかしその“日課”もまた、自然に変わる日がやってくる。足枷だけは解かれたのだ。 それも当然のことだ。四つん這いでは、膨れた腹が邪魔で歩けなくなったから。 臍ごとぶっくり飛び出た胎の中には、ちょうど処女を失った日に仕込まれた仔が、 今か今かと己の生まれる日を待ちわびて、どくんどくんと激しく腹を蹴り回す。 その嘔吐感に彼女が小鬼たちの精を吐こうものなら、その倍の量を喉に流し込まれ、 雄臭い粘り気が胃液を押し返していく不愉快さに、少女は何度も泣き叫んだ。 “散歩”はようやく二足でさせてもらえることになったが、むしろ四つん這いの頃よりも、 彼女が拘束される時間は増した――なぜといえば、妊娠でぷりぷりと丸みを帯びた尻が、 ちょうど小鬼たちの視線の高さで左右に振られることとなったのだし、 その大きな胎は、彼らに雄としての充足感と、群れの未来への展望を与えた。 結果として、彼らは巣の中を歩かされている少女に好き勝手にしがみついては、 既に先客のいる胎に向けて、自分こそが親だ、あるいは次こそ自分が――そう宣言する。 尻たぶから太腿を伝って垂れる精液と愛液の混合液の感覚に少女はすっかり慣れたが、 こうして小鬼たちが自分の子宮しか見ていないことに、おぞましさを覚えるのだった。 盛り上がった胎に圧されて左右に逃げる乳房は、妊娠によって数回りは大きくなり、 小鬼たちは散歩中の彼女の乳房を、まるで蛇口でも捻るかのような手つきで握る。 あるものは、乳首周りに直接歯型を残したりして――乳を出せ、と迫る。 じんわりと先端から滲むだけの乳汁では彼らは満足しない。たっぷりと吐き出してこそ。 そうして自分が、巫女としてではなく、彼らの馬、あるいは乳牛として扱われる―― そんな間近の未来を思うたびに、少女はまた、泣き叫びたくなるような気がする。 けれど、胎内の赤子は物理的にも精神的にも、彼女の中で大きくなっていく。 全てを奪われた彼女が、新たに何かを与えられたとしたら――依存せずにいられようか? 孤独感と不安感がその瞬間に反転して我が子に対する全ての愛情に変換されてしまう―― そんなことを少しでも思うと、彼女は努めて小鬼たちへの憎悪と憤怒を持とうとする。 こんなやつらに孕まされたものは、自分にとって受け入れられないものであるはず―― ずきずきと痛み始めた腹部に、彼女は何度も願った。産まれてこないで、嫌―― それは自ら作った憎悪が、母性という本能に負けることを恐れてのことであったろうか。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 縮みきる前に、また玩具にされた胎。少女の臍下には隠しきれない弛みが残る。 小鬼たちは藁束を握るのと同じような乱雑さでもって彼女の腹の皮を握り、 手首を上下にくねくねと揺らして、雌として脂の乗っていく身体を弄ぶ。 若く健康な子宮は、初産を経てなんとか元の大きさにまで戻ったものの、 十月十日かけて伸びに伸びた皮までは、この不衛生な穴蔵で元に戻るわけもなかった。 妊娠線も痛々しく、日に当たれず白さの増した肌の上に残っている―― だがそれよりも目立つのは、強引に小刀か何かで彫られたであろう、小さな疵だ。 見ようによってはそれは、不格好な人形のように見えなくもなかった。 頭部に位置する箇所の左右から生えた――おそらく耳と思われる――部位が、 少女のそれよりも明らかに長く、むしろ小鬼のそれに類するものであることを思えば、 後産の最中、呆然としている彼女の覚えた腹部への鈍い痛みも理解できよう。 その推測を裏付けるかのごとくに、小鬼たちは少女が第一子に乳をやる最中、 その既に尖った歯列にて乳首を強く噛まれて顔をしかめた際に、 嘲るように、彼女の下腹の疵を撫でるのである。もう片手に指を一本立てながら。 母乳は何も赤子だけのものではなかった。色の戻らぬ黒々とした下品な乳輪は、 視力の弱い赤ん坊だけではなくて、鋭い牙を持った成体をも強く強く惹きつける。 種付けの最中、小鬼たちは乱暴に腰を振って抽挿すると同時に、 少女の乳首にかぶりついて、歯を立てて噛み切るぞと暗黙の脅しを掛けつつ、啜る。 ほとんど全ての小鬼がそうしたし、赤子に乳を含ませているとその横から、 重みを増した乳房をがっしりと掴まれて、これまた乱暴にずるずると飲まれるのだ。 そのたびに、少女は身を捩って彼らを胸から引き剥がそうとするのだが、 押し倒されて、あるいは片手に赤子を抱いていては、とても振りほどくことは不可能だ。 彼女はよく、右側に赤子を抱いて右の胸で乳をやっていたから、 必然的に、成体の小鬼たちが吸うのは左胸となる。与えられる物理的刺激の差により、 歯型の数も、乳首の色さえも、左右不均等になってしまった―― 父子両方から解放されて、母胎と成り果てた己の肉体を仄明かりの中に見るとき、 少女は自分が既に、ただの一匹の雌に堕とされていることを思い知る。 枯れ果てた涙の代わりに、たらたらと白い二筋が乳房の上を縦断していく。 指先で拭うと――親指と中指との間に、ねちゃり、と粘り気のある橋がかかって、 その匂いを嗅ぎつけた赤子は先ほどたらふく飲んだはずのそれをねだって泣き喚き、 声につられて岩陰から、緑肌がわらわらとおこぼれを狙いに来る――笑うしかない。 第二子の出産と共に、少女の下腹部にはまたみっともない耳長人形が刻み込まれた。 小鬼はまだ血のしたたる刃先をぺろりと舐めると、刃のついてない側で、 彼女の再び弛んだ腹を、ぺち、ぺち、ぺちと小刀を横に動かしながら叩いていく。 その数だけ孕ませてやる――と、聞き取れない彼らの言葉の意味がわかる気がした。 事実、胎が空けばすぐに次を仕込まれる――そんな生活が延々と続くのだ。 綺麗だった白い肌、くびれた腰は今や妊娠線と小鬼の劇団で一杯になった。 へたれた小鬼人形が二列目に入ったとき――ぷつん、と彼女の中で何かが切れた。 自分はもう、他の何者でもいられなくなったのだ、と。 霧はまだ濃く、廃墟を巻いている。湿った空気が、水草の香りを運んでくる。 一人の女がその中を歩いていた――無論、その背には主となる緑肌、 馬に乗るかのように足でぱんぱんと彼女の腿を叩いて走るよう促す。 轡には紐が付いていて、なおさら彼女の孕み袋兼馬という今の立場を明確にしていた。 その手には、一度へし折られたのを無理に補修して奇妙に曲がった杖がある。 女がそれを手にして何をかを呟くと、風は渦巻いて湿地の獣を宙に巻き上げた。 地に叩きつけられた兎やら鳥やらは、彼らの晩餐に供されるのであろう。 使い勝手のいい彼女の頭を小鬼ががしがしと髪の乱れるのも気にせず撫でると、 女はうっとりした顔で、自分が役に立てたことを誇るのであった。 脇で獲物たちを拾い集める別の小鬼は、また大きく実った胎を軽く手で叩き、 彼らにとっては高い位置にあるその乳房を下げるよう、彼女に伝える。 主たちの喉を潤すために己の母乳が使われていることに――女はまた満たされた。 未だ霧の漂う廃墟を背に、馬は穴蔵へと自ら足を向け、歩み出す。